高難度4回転ジャンプの成功者数を調べてみた(フィギュアスケート2020/2021の基礎点変更について)

フィギュアスケート2020/2021シーズンのルール改正が、2020年5月11日にISU(国際スケート連盟)から発表されました。

その中でも注目なのが、4回転ループ、4回転フリップ、4回転ルッツの基礎点変更です。今回はこれについて「ジャンプ成功者の人数」の観点から考察してみました。

Communication No. 2323
SINGLE & PAIR SKATING Scale of Values season 2020/21
https://www.isu.org/figure-skating/rules/fsk-communications/24331-2323-sp-sov-changes-for-season-2020-21/file (pdf)


今までフィギュアスケートの6種のジャンプは難易度の序列が明確に決まっていました。

トウループ(T) < サルコウ(S) < ループ(Lo) < フリップ(F) < ルッツ(Lz) << アクセル(A)

それぞれの基礎点も上記の大小関係の通りとなっていました。(バランス調整こそあれど)


それが今回、高難度の4回転(ループ、フリップ、ルッツ)において、3つのジャンプの基礎点が横並びで設定されたのです。

2019/2020 2020/2021
4Lo
10.5
11.0
4F
11.0
11.0
4Lz
11.5
11.0

ルッツは(アクセルを除く)5種のジャンプの中で、最高難度のジャンプと言われてきました。フィギュアスケート界で長く言われていたその難易度が間違っていたというのでしょうか?


ジャンプ成功者数を調べてみた

そこで、実際にこれらのジャンプがどのくらい跳ばれているのか過去の成功者数を調べてみました。
調査にはフィギュアスケート要素検索さん(http://fses.sakuraweb.com/)を使わせて頂きました。ありがとうございます。

調査手順

1)4Lo、4F、4Lz の実施回数を検索する
2)ダウングレード(<<)、アンダーローテーション(<)については除外。
3)+COMBOやセカンドジャンプのエラーなどは、そのジャンプ単体としては成功しているので採用。
4)転倒(Fall)はGOE値から一律に判定できないため、少なくとも「回りきった」として成功に含める。
5)上記から、選手名の重複を除く。

調査結果

4Lo 男子 6人(女子 0人)
4F 男子 6人(女子 2人)
4Lz 男子 19人(女子 3人)


どうでしょうか。4回転ループ、4回転フリップに比べて、圧倒的に4回転ルッツの成功者が多いですね。
高得点を取るために皆が難易度の高いルッツに挑戦している、と考えることも不可能ではないですが自然ではありません。(より簡単に跳べる4回転があるなら、皆そちらを練習するでしょう)
つまり、この人数からは「4回転ルッツの難易度が想定ほどには難しくなかった」と言えるのではないでしょうか。



(※以下は、私の脳内での推察になります)

なぜ点数調整に至ったのか?

ISUが実際にどのような理由で判断したのかは分かりませんが、私は下記のように推察しています。

  • ジャンプの基礎点は、その難易度を元に設定している。(前提)
  • そもそも数年前まで、高難度4回転ジャンプを跳べる人類はごく僅かだった。
  • そのため、高難度4回転ジャンプの基礎点は想像で決めるしかなく、3回転までの基礎点を元に推定していた。
  • 実際に跳ぶ選手が出てきた結果、意外と皆が4回転ルッツを跳べることが分かってきたので、実情に合わせてバランス調整した。
  • 但し、今回は ループ < フリップ < ルッツ の基礎点の順序を逆転させるまでには至らず点数を同じにするに留めた。

という感じではないでしょうか。


このような下方修正が入れられると毎回「難しい要素に挑戦した人のやる気を削いでいる」などと言う人も出てくるのですが、実情に併せて適切なバランスに調整し続けるのは当然必要なことと考えます。
(もちろん、賢明な読者の皆さんなら「特定の選手を贔屓するために点数を操作したんだ」などというような陰謀論には与しないことでしょう :-P)


なぜ難易度が逆転する?

さて、では何故このような難易度の序列の変化が起こるのでしょうか?
私自身は4回転ルッツはもちろん1回転ジャンプも跳べませんので、以下はあくまで推測になりますが、次のように考えられるのではないでしょうか。

  • ルッツは逆カーブからの踏切になるため、ジャンプと反対方向の回転モーメントが身体に掛かる。
  • その回転力の打ち消しがルッツ特有の難しさの理由。
  • ただし、回転数が1→4回転になっても打ち消すべきモーメント量は4倍にはならない。
  • 最初に逆カーブ分の回転力さえ打ち消してしまえば、後は回るだけというのは他のジャンプと同じ。
  • つまり回転数が増えるほど、ルッツ特有の難しさは比重が下がってくる。
  • また、ルッツはトウジャンプのため、4回転するための高さを稼ぎやすいジャンプである。

という理由が考えられそうです。一方、ループジャンプはというと、

  • ループはエッジジャンプのため脚力による高さが稼ぎにくい。
  • 同じエッジジャンプのサルコウと比べても、スピードを高さに変換しにくいフォームのように思える。
  • ループは1回転ジャンプにおいては比較的跳びやすい。
  • 4回転の域に達してくると、高さそのものを稼ぎにくいことによる難易度が顕著になってくる。

ということではないでしょうか。


この記事がフィギュアスケート2020/2021ルール改定のジャンプの基礎点変更について、皆さんの理解の助けになれば幸いです。