一般市民がデジタル改革担当大臣と話した話

先日、比較的レアだと思われる面白い体験をしたので、それを共有してみたく。

私、単なる一般市民なのですが、平井卓也デジタル改革担当大臣とオンラインで話すという機会がありました。


経緯について話してみます。

2020年10月9日に「デジタル改革アイデアボックス」(https://ideabox.cio.go.jp/)というサイトがオープンしたというニュースを目にしました。

これは政府が推進する「デジタル改革」について、広くアイデアや意見を募るといったもので、ログインをすれば誰でもネットから意見を投稿できるというもののようです。


私がこれを見たときにはサービス開始直後だったので、まだ投稿は4~5件くらいしかありませんでした。

この手のサイトは先行者利益(※最初に投稿した方が、多くの人の目に止まる)が働くので、せっかくだから試しに投稿してみるかと思い立ちまして。

ちょうど、その数週間前に自身のTwitterで「住所を繰り返し手書きする手間」についてツイートしていたので

という趣旨のことをアイデアとして投稿してみました。

そうすると、やはり狙い通りに先行者利益が効いたのか、この案に共感してくれる方が多かったのか、おかげさまで賛成ポイントも60ptほど付きまして、コメント欄には「内閣官房デジタル改革担当」からのレスもついてたりして、なかなかに私の自尊心が満たされました。



と、ここで話が終わりかと思ったのですが、後日メールでその内閣官房デジタル改革担当の方から連絡がきまして。「大変貴重なご意見だと思い、一度詳しく内容を聞かせて欲しい」とのこと。

この時点でかなりビックリしたのですが、その後やり取りをすると今度、平井卓也大臣が「デジタル改革アイデアボックス」利用者から直接ヒアリングする公開オンラインミーティングを行うので、それに参加してくれないかとのことでした。

ははぁ、なるほど。内容を聞かせてというのはこのリクルートだったわけですね。こんな降って湧いた面白い話、乗る以外の選択肢はないので、二つ返事で了解しました。



とはいえ、一般市民がオンラインとはいえ大臣と直接話すとなれば、的はずれなことを言って貴重な時間を無駄にさせてはいけないので、関連知識についてはちょっと事前に勉強しました。



住所などの情報を繰り返し記入させない「ワンスオンリー」という考え方は、少なくとも、2018年の自民党IT戦略特命委員会の資料には見つかりましたし、詳しく追えていないですが、おそらく10年以上前から(もっと前?)提唱されていることのようです。

ということはつまり、私が投稿した意見は別に、誰も気づいていなかった目新しいアイデアというわけではなく、政府の担当者の方にとっては百も承知の内容のはず。

ただ、それをわざわざ「アイデアボックス」というオープンな場で募り、多くのユーザーの支持がある意見を、大臣が公開ヒアリングで吸い上げましたよという事実固めは、今後施策を推進する上での後押しになりそうな気がします。

後から誰かが反対を言い出しても、「いやいや、オープンな場で議論して賛成意見が多数でしたから。広く国民の意見・要望を吸い上げた結果として進めている施策です」と言い切れますよね。



さて、平井卓也大臣とのオンラインミーティングに出た感想です。(ユーザー側からは全部5人参加でした)

基本的にはこちらからアイデアボックスに投稿した内容を再び言うだけなのですが、感心したのは平井大臣からのそれぞれの方への返しでして。(大臣相手に「感心」ってのも失礼だと思いますが)

例えば、ワンスオンリーという考え方は、エストニア(※IT先進国として有名らしい)では浸透していて、「エストニアでは、一度国が本人から得た情報は、おんなじことを聞いちゃいかんということになっている」というようなことがサラッとご本人の口から出てくるわけです。

YouTubeでオープン対話の様子も公開されているので、興味ある方は探してみれば良いと思いますが、他の方のアイデアについても、相当量の背景知識が頭に入っていてスラスラと問題点が出てくるというように感じました。

「大臣のようなお偉い人は、偉いだけで現場の知識は何にも分かっていないに違いない」というようなステレオタイプ(?)を抱いている人もいるかもしれませんが、少なくとも平井デジタル大臣については真逆の印象、現場レベルのこともよく分かっているトップだという印象を受けました。


もう一つ私が得た知見としましては、このオープン対話がニュース記事になったときの話でして。

ニュース記事は当然このミーティングをいちいち全文書き起こしはしませんので、マイナンバー義務化の話とかも(https://www.jiji.com/jc/article?k=2020101601138)こんな感じで、かなり端折った記事になります。

この記事中の「持たなければ生きていけない世界に」みたいな表現が目に付かないでしょうか? このニュースだけを見た人は「国が強制的に個人情報を管理する」的な印象を受けたりはしないでしょうか?(ニュースへの反応コメントを見ていると実際そういうコメもちらほらと)



ただ、この部分は
エストニアは2002年からマイナンバー始めて、義務化しても取得率全然上がらなかったけど、金融で便利なサービスが始まったら一気に普及したと聞いている」(だから義務化とか罰則化をするよりも、便利なサービスを作ることが普及には大事)
というニュアンスで受け答えをしています。

実際のミーティングに参加した身としては背景が分かって話しているんだなという納得感を私は感じましたし、個人情報の収集や利用に関しては大臣を始め関係者の方は「本人の同意をもって」ということを繰り返し言っているので、強制的に支配するようなニュアンスは全然無いように感じました。

それがこうして簡潔なニュース記事としてまとめられてしまうのですから、記者に悪意がなかったとしても、私たちは普段ニュースでは相当に端折られた内容しか読んでいないんだな、というのを改めて実感しますね。



今回、最初の投稿は自尊心を満たしたいくらいの軽い気持ちだったのですが、他のユーザーから評価ポイントを貰えて、それが大臣に直接話しを聞いてもらえて、実際に政策の後押しになっているのかもしれないというのは悪い気はしません。

自分達の将来の生活を便利にするために役立てているという実感があって、政治へ興味を持ってみるのも面白いもんだなと感じています。

10年後くらいの未来に、私たちが引っ越し手続きや民間サービスの利用時に「そういえば、昔と比べて住所を手書きしたりすること無くなったな……」と思える生活が実現していてほしいですね。

そういった便利な未来を実現するために、デジタル庁の改革を応援しています。